成長事例

セラピー日記

2021/01/00

自閉症・知的障害のお子さま(5歳/年長)の成長の様子「言葉の発達を促す楽しい授業」

教室に見学にいらした時に印象的だったのは、重たそうな図鑑を手に持っている姿です。それと、新聞の折り込みチラシが、大事そうに収められたクリアファイルもありました。当時はまだ、セラピストが覗き込むと、くるりと背を向けられてしまいました。保護者様によると、まさやくん(仮名)は図鑑を眺めて過ごすのが大好き、最近はお店のロゴにも興味があり、折り込みチラシを集めているとのことでした。一人で過ごしてくれるので、手がかからなかった反面、5歳になっても会話がないことを心配され、ご相談にいらっしゃいました。

まさやくんが食べたいものや欲しいものをどうやって理解するのかお聞きすると、大人の腕を引っ張って、その物がある場所まで連れて行くことができる、いつのまにか物の場所を知っている、とのことでした。あれこれとその場で物を見せて尋ねると、まさやくんも指差しや首振りで答えられるので、ご家族は、まさやくんのお願いをきくことができているようでした。

ステップ1:セラピストと一緒にいること 簡単な模倣の課題

まさやくんの週2回の通所が決まりました。セラピストは教室にあるだけの図鑑と、お店のロゴをネット検索し印刷したカードを準備しました。 初日こそ背を向けて図鑑をめくっていたまさやくんも、セラピストから図鑑や手作りロゴカードを受け取る、セラピストの隣で眺める、1つの図鑑を一緒にめくっても大丈夫になるなど、少しずつセラピストと一緒に過ごすことができるようになり、そのうち、まさやくんはこちょこちょをされるのが大好きなこともわかりました。

4回目のセラピーからは、セラピストと同じ動きをする〈模倣〉の課題を1つ行うごとに、「上手だね」「よく見てるね」と1枚ずつロゴカードを渡すようにしました。ふだんから、物の場所をいつのまにか知っているなど観察力のあるまさやくんは、模倣もすぐにできるようになりました。

ステップ2:声を出すこと

模倣と並行して、こちょこちょ遊びの中で声を出す機会を作りました。まずは、こちょこちょの最中で、笑い声が漏れた時、すかさずもっとくすぐるようにしました。次は、1.2の…でセラピストが止まり、「ん!(さん)」と声が出た時に、彼のところまでかけ寄ってくすぐる遊びにしていきます。模倣の内容も、少しずつ「んまんま」と口を動かす、「ふー」と息を出す、「あ」と声を出すようにしていきます。まさやくんは毎回着々と、ロゴカードを集めていきました。

ステップ3:言葉の力

1か月後、くすぐってほしい気持ちが高まった時声を出すこと、模倣すること、言葉のやりとりに必要なパーツをそろえることができました。 回を重ね無理なく、好きなものを使って行ってきたので、幸い楽しく通所を続けてくれている様子でした。

さて、次のステップです。くすぐってほしい時に、「き」「て」を模倣してもらいます。模倣できたらまさやくんのところに行きこちょこちょ、 これを何度も繰り返します。何度か行うと、まさやくんは「きて」をスムーズに出せるようになりました。

そこで、セラピストはお手本の「きて」のアクションを小さくしていき、最後にお手本をやめてしまいます。まさやくんは初めて自分から「きて」と言って、セラピストを呼ぶことに成功しました。その日セラピストは、彼をひとしきりくすぐったあと、ロゴカードを全部渡しました。

ステップ4:生活の中で活用

保護者様からはご家庭でも、目を見ることが増えた、指差しの時に声を出すことがあるとのこと。そこで、まさやくんがよく食べたがるチョコレートを少量お持ちいただき、半透明のボックスに入れておきました。セラピーの中盤、まさやくんはいつものチョコレートが教室にあることに気づき、指を差します。セラピストは、「きて」の時と同じ要領で、今度は食べたい時に一人で「チョコ」と言えるように、小さなチョコの欠片を渡しながら繰り返しました。

教室での発語が安定してきた頃、保護者様にセラピーに少し同席いただいて、ご家庭でお願いしたい関わりをお伝えする時間をとりました。同席1回目には、まさやくんがチョコを食べたいとわかったら、すぐに渡さず、目の前で止めて待つことをお願いし、教室でまさやくんが「チョコ」と言う様子をお見せしました。そして、今までまさやくんにとって、言葉は聞きとるだけのもので、自分で使うものではなかったこと、今回の関わり方で、言葉を自分で使うとすごく便利なんだと気づけること、言葉の力を知る一歩になることをお話しました。保護者様には大変真剣にご協力いただけたことで、まさやくんはご家庭でもすぐに「チョコ」と言えるようになったそうです。

教室でのセラピーも進めながら、定期的に保護者様との連携を行いました。お母様の腕を引っ張った時に「きて」が出るのを待つこと、「チョコ」以外の欲しいものの名前を言うこと、お菓子の場所から離れて「チョコ」と言うこと、「チョコ」「たべたい」と2語言うこと。このようにして、まさやくんの生活に、言葉の力がますます存在感を増して行くことになるのです。

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